先程からセシルは俺の肩に手を掛けて必死に背伸びをしている。
勿論何がしたいのかはわかっている。
ただ、なぜ急にそんな事を思い付いたのかまではわからないが。

『そろそろ降参したらどうだ?』

『後、もう少し、なのにッ』

必死なのはわかるが、この状態のままでは無理なものは無理だ。
セシルが一体何をしようとしているのかと言うと、お互い立ったままの状態で俺の額にキスをしようとしているのだが、後僅かの所で届かない。
普通の状態で俺たちの身長差は1cmと差は無いと言える。
だが、今の状態はまだ誤差の範囲だが俺の方が僅かに高い。
靴の踵の分だ。セシルは毛足の長いスリッパを履いているから元と変わりはない。

『屈んでやるからそろそろ諦めたらどうだ』

変な所で頑固だからこの程度では折れないと思っていたが、今日はいつになく素直だった。
但し、凄く悔しそうに泣きそうな顔をしているが。

『…少し屈んで……』

『そんな泣きそうな顔をするな』

『な、泣いてなんかッ』

セシルの手を掴んでソファーの前まで行き深く座る。

『これなら届くだろう』

『何か悔しいけど……』

俺の膝の間に膝立ちになると前髪を掻き上げそっと額に唇を寄せてきた。
額の傷の脇の辺りか。

『スコールはまだ成長期なんだよね。その内抜かれるんだろうな』

『170後半はあるんだから低いわけじゃないだろう』

『抜かれるのが悔しいの。スコールは将来的には180代行くよね、きっと』

羨ましいなと額を俺の頭に押しつける様にして抱き付いてくる。

『満足したか?』

『一応は。でも、勿体ないよね』

『何がだ?』

今度は一体何だと言うんだ?

『この傷跡。顔立ちこんなにも綺麗なのに…』

掌で俺の両頬を包み込みながら覗き込むと、あ、もし大切な思い出があるならごめんねと付け足してきた。
俺は何処から突っ込むべきか考えて黙ってしまった。

『……ごめん。気に障る事だったみたいだね』

俺が黙ったのを機嫌を損ねたと捉えたらしい。

『いや、違う』

え?と目を丸くして俺の顔を見る。

『まず、この傷はあまり良い思い出はないから気にするな』

そして触り心地の良いやわらかな頬を突いてやる。

『俺よりアンタの方が綺麗な顔立ちをしてるだろうが。もし、顔に傷なんか付けたら許さないからな』

『ちょっと。そういうのって女性にたい、っ~ッ!!』

それ以上言わせないように引き寄せ深く口付けて口を塞ぐ。

『わかったな?』

『……』

唇を離して顔を見ると、納得いかないといった表情で頬を膨らませていた。

『頼むから少し位は自覚してくれないか?アンタ自身がどれだけ影響力を持っているのかを』

セシルの無自覚の行動は本当に心臓に悪い。
特にこういう仕草を見ると本当に年上なのかを疑いたくなってくる。

『俺がアンタのその顔を気に入ってるんだ。文句は言わせない』

スコールもセシルもお互いに可愛いって思ってる部分があります。スコール的には自分が可愛いと思っているセシルに可愛いと言われるのは凄く納得行かないのですが…
そしてスコールが気に入っているのはセシルの顔立ち、セシルが気に入っているのはスコールの声。
この2人はほのぼの姉弟な感じがしてるのがやっぱり良いなぁ。