『…あ、雪だ』

道理で昼を過ぎた辺りから底冷えする寒さがするなと思っていたら。
窓越しに空から舞い落ちてくる白い雪を見つめながら、そう言えばあの人は今朝出て行く時に傘を持って行かなかったなと思い出した。

携帯電話を取ってきて窓の外の薄らと雪化粧を施した町並みをパシャリと写す。
「雪だよ。駅まで迎えに行くから帰る時に連絡して」と絵文字やアイコンを多用して可愛く仕上げたメールに、先程撮った写真を添付して送信完了!
あの人とツーショットで撮った写真が設定された待ち受け画面に戻ったのを確認してから携帯を閉じた。
磨硝子で出来たウサギが付いたストラップがゆらゆらと揺れている。

窓の外を見ると雪が大粒になってきている気がする。
このまま降り続いたら明日の朝には辺り一面銀世界になっているかも。

手に持ったままの携帯電話からゆっくりとしたオルゴールの様な音色が流れだす。
これはメールじゃなくて着信。サブ液晶にはあの人の名前が表示されている。
開いて通話ボタンを押した。

『はい。……うん、大丈夫、ちゃんと温かくしてるから。……もぅ、心配性なんだから』

真っ先に心配されたのは部屋の温度と服装。
暖房入れてるし服も少し厚着気味。だって寒いの苦手だし。

『うん。わかった、その頃着くように行くね。……え、ううん。まだ作ってないけど。……ふふ、良いよ。エスコート楽しみにしてます』

たまには外食しようとのお誘い。お店のチョイスからメニューまで全部お任せで。
何を着て行こうかな。折角だから目一杯お洒落して行こうか。雪に感謝しなくちゃ。
日中以外のデートは本当に久しぶりかも。
いつも夜は手料理が食べたいとお腹を空かせて帰ってくるから、愛情たっぷり込めて作った料理と一緒に帰りを待ってる。

『うん、…………うん。じゃあ、後で………………』

通話が切れ待ち受け画面へと戻った液晶画面を見つめながら床にぺたんと座り込んだ。
通話が切れる直前にあの人が囁いた"愛してる"の一言が今も耳に残る。
同居?同棲?する前も、し始めてからも幾度となく直に耳元でも囁かれた言葉だけど、今のは……
ぎゅっと携帯電話を握りしめ余韻に浸る。

待ち合わせの時間に余裕を持って着ける様に早めに支度をして部屋を出る。
勿論傘を2本持って。流石に1本に2人で入るのは濡れそうだし。
大分雪が足場を悪くしているが、駅までの道のりを歩く足取りは物凄く軽かった。

随分早く着いてしまったので駅ビルの中をぶらり散策して再び待ち合わせ場所に戻る。
時計を確認すると待ち合わせの時間まであと少し。でも、この天候だから電車が遅れてるかな?
首を温かく包んでくれるマフラーに口元まで埋める。
この真っ白なマフラーはきっと似合うからとあの人がプレゼントしてくれた物。

『遅くなってすまない』

人込みの中でも直ぐに見つけてくれた。

『ううん、大丈夫』

『さ、行こうか』

『うん』

持っていた傘を手渡してから差し出された腕に自分の腕を絡め寄り添って歩き出す。
エスコートされた先は近くにあるホテルの最上階にあるレストラン。
窓の外に広がる雪に覆われかけた夜景が幻想的に浮かび上がる。

アペリティフは黄金色でフルーティーな香りのシャンパン。
フルート型のシャンパングラスを目の位置まで持ち上げアイコンタクトを交わす。
最初の頃から比べれば、お互い大分様になってきたかな?

食事を終え、食後の紅茶を飲みながら一息ついた所で、急に結婚しようかと言われた。

『え!?』

あの人がポケットから小さいベルベッド地の白いケースを取り出して開けてみせたそこには、細めだが繊細な細工が施された指輪が入っていた。
余りに唐突で頭がついて来ていない状態だったけど、左手の薬指にそっと指輪をはめてくれて……

『結婚、してくれるか?』

嬉しくて、本当に嬉しくて声が出なかったけど、この気持ちを伝えたくて頷いた。
本当にそれは突然のプロポーズだった。

一体誰と誰の話なのかが判らないものが書いてみたくなって挑戦してみました。
主人公はセシルですが、性別はどっちでも取れるようにしてみました。
相手は誰なのかはご想像にお任せします(一応私の中では誰なのかはイメージしてありますがあえて伏せる)
末永くお幸せに…